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日々変わりゆく激動の時代をどのように生きるか。学生たちが大丸有(大手町・丸の内・有楽町)エリアでさまざまな社会人の生き方を学び、今後の未来を描き上げる「丸の内サマーカレッジ」が開催されました。8月5日にオリエンテーションをオンラインで実施し、8月10日~12日の3日間で大手町の3×3Lab Futureにてメインプログラムが行われました。異なる環境で学んできた66名の高校生、大学生・大学院生が出会い、視野を広げ、アイデアを生み出す充実した時間となりました。
エコッツェリア協会の田口真司と、小西政弘が司会として場を盛り上げます。会場では昨年のサマーカレッジに参加した学生たちがアシスタントを担当し、今年の参加者のフォローを行いました。
<1日目のプログラム>
・講演1「学びを加速させる心得とは」
長岡健氏(法政大学経営学部教授)
・講演2「自分事としての社会づくり」
重永忠氏(株式会社生活の木 代表取締役社長CEO)
鵜尾雅隆氏(認定NPO法人日本ファンドレイジング協会 代表理事)
・フィールドワーク「大丸有街歩きツアー」
プログラムの始まりを飾るのは長岡健氏の講演です。法政大学で創造的コラボレーションのデザインを研究する長岡氏は、「このサマーカレッジは様々な大学生・高校生が集まるダイバーシティの場。大学や年齢などの肩書にとらわれず人とふれあう場を楽しんでください」と語り、これからの3日間を有意義に過ごすための心構えを説明しました。自分の可能性を探ってほしいという長岡氏からのメッセージに参加者は真剣な顔で頷きます。
「聴く、対話する、考える、気づく」ことを重視し、講演を聞くと同時に頭を使って発信することが大切だという長岡氏。サマーカレッジのTwitterハッシュタグ「#3×3sc」を使ってリアルタイムで思ったことを発信してほしいと伝えます。
「『聞く、メモする、覚える』という従来の学びの姿勢ではなく、自分の心に刺激を受けて感動することを大切にしてほしい。どんなことでも良いのでとにかく考えることです。あなたが重要だと思ったことは、他の人にとっても重要なことかもしれません。その考えをみんなで共有する。聞きながら、考えながら、対話することで頭が刺激されます」
続いて、「集う」ことの重要性について、「井戸的空間」と「焚き火的空間」の2つの事例の紹介がありました。井戸的空間とは、目的を達成するためにコストパフォーマンス良く知識の習得を行う場。一方で焚き火的空間は、必ずしもそこに行く必要がない場所だが、互いの対話を通して新たな気づきが生まれる場です。
「サマーカレッジでの理想は焚き火的空間です。対話しながら当初の目的と違う方向に進むこともありますが、その状況も楽しみつつリラックスして場を作り上げることが大切です。まずは目の前の相手に声をかけ、互いににっこり笑って挨拶してみましょう。初めましての相手とのコラボレーションにわくわくしながら、最終日の良いアウトプットを目指していきましょう」
続いて長岡氏は、見知らぬ者同士が『同じ時間・同じ空間』で、どのようにコラボレーションを図っていくかを2つの視点から話しました。
1つ目は「創造性を発揮できるか?」。アメリカの心理学・教育学者であるキース・ソーヤー著『凡才の集団は孤高の天才に勝る』より、「グループ・ジーニアス」の概念を取り上げます。集団が対話を通じて力を合わせることで、個人の天才を超えるアイデアを生み出せるという考えです。
「みなさんはフロー理論を聞いたことがありますか?スポーツでは『ゾーン』と言われます。極度の集中状態の中で、取り組み自体が楽しくなり没頭している状態です。強烈に集中することで、行為と意識が融合し、自然と体と頭が動くようになります。ディスカッションにおいても、まさにそのような状態のときに創造的なアイデアが生み出されます」
フロー状態を生み出すために必要な条件は、以下の10項目です。
・適切な目標の意味付け
・完全な集中
・不断のコミュニケーション
・先へ先へと進める姿勢
・リスクを受け入れる覚悟
・自主性
・全員が同等
・深い傾聴
・適度な親密さ
・エゴの融合
グループでの議論には『自立的』と『協力的』、『管理がない』と『一丸となる』、『積極的な挑戦』と『失敗の緊張感』などの矛盾した条件が見られます。これらのどちらか一方ではなく、両方を同時に行うことでより創造的なアイデアに近づきます。
「特に重要なのは、『完全な集中』と『不断のコミュニケーション』です。常に誰かがグループを刺激しながら発言し合い、アイデアを出し続けましょう」
また、「動きながら考える、考えながら動く」ことも創造性の発揮のために重要だと長岡氏は話します。C.M.アイゼンハートとB.Nタブリージの調査によると、最もイノベーティブなプロジェクトは、設計時間にかける時間よりも、実施段階にかける時間が多いといいます。
「設計と実施を分離するチームはあまり創造的な結果が出ないといわれます。議論しながらまずは作ってみて、臨機応変に変更を重ねるほど良いアイデアになるという研究結果もあります。クリエイティブへのこだわりはアイデアの斬新さを追求すること。締切り直前でも設計を壊す勇気をぜひ持ってください」
見知らぬ者同士がコラボレーションを行うためには、「自立性の発揮」も重要となります。その鍵となるのが「対話」です。対話は、同質性を前提としないコミュニケーションであり、初めて会った人たちとも公式な場で対話できることが大切だと、長岡氏は語ります。
「会話は、価値観・生活習慣・考え方も分かる親しい人とのおしゃべりですが、対話はあまり親しくない人同士の価値観・情報の交換。親しい人同士でも、価値観や考え方が異なる時にはどちらかを否定することなく、すり合わせて違いを理解することが必要です」
最後に、長岡氏は次のように講演を締めくくりました。
「一人ひとりが主体的になり、それぞれの違いを認めて力を合わせてください。異なる個性を持つみなさんが混ざり合うことが、クリエイティブを生み出す一歩になります。この場は絶好のチャンスです。積極的にいろんな人と話して3日間を楽しみましょう」
講演後は、グループに分かれてディスカッションを行います。好きな食べ物の話題を対話の入り口にしながら、講演の感想や自分の夢についてそれぞれでシェア。「将来ありたい像」についても話を重ね、現在の自分自身が目指すものを言語化し、互いに確認しあいました。
午後は、株式会社生活の木 代表取締役社長CEOの重永忠氏と認定NPO法人日本ファンドレイジング協会 代表理事の鵜尾雅隆氏をゲストに、これまでの経験を踏まえた社会づくりのポイントを語っていただきました。
重永氏は、20代からハーブ・アロマテラピー事業の普及を行ってきました。日本国内の活動だけでなく、スリランカにてアーユルヴェーダを行うリゾート「Hotel Tree of life」を経営。現在は、WellnessとWell-beingをパーパスとしながら、次世代の人財に向けた事業を行っています。
「幼少期から父親の『全部自分で決める』という方針のもとで育ちました。自分で決めて責任を持つと誰のせいにもできません。22歳のときに経営者になると決め、25歳で経営を勉強しました。33歳には好きなことを「志事(しごと)」にすると覚悟を決めました。その後、39歳で社員全員が「志事の醍醐味」を感じられるオンリーワンの会社にすると定め、61歳の現在は「次世代のため」の志事に重点を置いています。みなさんにも小さな"決める"を積み重ねて、大きな決断を目指してほしいと思っています」
「生活の木」は、ハーブやアロマテラピー文化の日本での普及を目指して原材料の輸入・製造・開発・卸売・小売とすべての工程に携わり、カルチャースクールやコンサルも行ってきました。商品は約2,600アイテム、全国110店舗の直営店があります。注目すべきは約700名の従業員数のうち、男女比が1:9と圧倒的に女性が多いこと。スリランカのホテルも、経営者である重永氏のほかは現地に住む人を採用するなど、性別や国籍を問わず多様性のある企業です。
「現在のパーパスを変えるにあたり、豊かさの実感が変わったと感じています。私が若い時は、GDP(Gross Domestic Product:国内総生産)が重視され、量的拡大・規模的拡大が豊かさのモノサシでした。今はGDW(Gross Domestic Well-being:国内総充実)です。モノや情報があふれる中で、どう生きるか、どうあるべきかが重要視されています。 WHO(世界保健機関)が定めるWell-beingの定義もありますが、「生活の木」では自分たちの定義を行うと決めました。『人間性の向上・回復』『身体も精神も健やかで良い状態』、『幸福であること』『楽しい人生』『良い在り方』『良好な関係性』を指針として、人・地球・先人や未来のことも考え、関係性づくりを大切にします」
そして、「自分事」に関する8つのテーマを重永氏に語っていただきました。
1.「理念」
「自分の人生理念を描いてほしい」と氏は強く伝えます。自分の軸を持つことで人に流されなくなり、会社の経営理念と自分の人生理念を腹落ちさせることで、幸せな生き方ができます。
2.「経営観」
企業では「自分」「企業」「社会」の三者の共感づくりと還元が重要です。全員で創り出した利益を「社会のため」に納税、「社員のため」に賞与に反映、「企業の永続のため」に内部留保に回しつつ、「やりたいことのため」に新規投資を行う。このように「四方よし」の状態で利益を生み出すことで、社員一人ひとりの自分事になる仕掛けを作っています。
3.「志事観」
19世紀の歴史家であるトーマス・カーライルの「一生の仕事を見出したことは幸福である」という言葉を添え、「遊びのように仕事を楽しめ。『好き』で、『得意』で、『人のためになる』志事が見つかれば『天職』になる」と学生へエールを送りました。
4.「使命」
人生を通して「何のために生まれたのか」「誰のための人生か」を考え続けることが必要です。答えは一つではありません。学生の今は自己を磨くステップとして、「なぜ、何のために、誰のために、誰と頑張るのか」について考えてほしいと重永氏は述べます。そして企業においては、「社員」「取引先」「株主」「顧客」「地域」「社会」「国」「経営者」「社員」の8つのステークホルダーの幸せのためにあるべきだと語りました。
5.「愉しみ」
「志事」として、さまざまな喜びがあることを説明し、喜びを広げることを目指してほしいと伝えました。
6.「縁」
縁に気づいてそれを活かし、「縁づくりの達人である」ことが重要です。チャンスを持ってきてくれるのは人なので、まず人間好きであり、普段から「誰に会いたいか」「誰と夢を語り合いたいか」「誰と夢を達成し、喜び合いたいか」を考え示すことで、「出会い運が良くなる」と伝えます。
7.「覚悟」
社会事・会社事・自分事の3つを公私一体化させ、自分ブランドとして「使命の全う」「魅力的な生き方」「結果を出す」ことで、人からも仕事を任せられるようになります。そのためには先に未来の目標を設定してから現在すべきことをする「バックキャスティング」の考えも大事だと話しました。
8.「感謝」
「半径1メートルへの人」への感謝を忘れてはなりません。重永氏は、父・母・妻・子どもや孫、なにより社員への感謝・リスペクトが大切だと述べ、700名の従業員全員に誕生日プレゼントを贈っているというエピソードを伝えました。
「『運命がレモンをくれたら、それでレモネードを作る努力をしよう』という、デール・カーネギーの言葉があります。誰もがおいしい、うまい、と満足してもらえるものを作りたい。私も社員が幸せを感じる、働き甲斐がある会社とは何かを考え、経営を続けています」
重永氏からは最後に改めて「成功体験よりも大切なのは、決断体験」であるということ。「自分で決めた」と自覚している数が成長につながると、学生たちにエールが送られました。
鵜尾氏は、バックパッカーとして世界を旅する中で国際協力に携わりたいと思ったのをきっかけに、JICA、外務省、米国NPOを経て、NPO向け戦略コンサルティング企業である株式会社ファンドレックスを創業。2009年には日本ファンドレイジング協会を創設し、代表理事を務めています。
鵜尾氏は「課題先進国である日本を課題解決先進国にしたい」と、少子化・子供の貧困などの問題が山積みの日本を明るくしたいと決意を表明します。時代の流れの感覚を持ちながら社会問題の解決を行うことが大切で、そのために若い人の力が必要だと語ります。
「NPOには熱い思いを持って社会に良いことをしようという理念がありますが、彼らはお金が無く苦しい思いをしています。そこで、民間非営利組織における資調調達を行うプロを育てる事業を始めました。日本ではまだ馴染みの薄い寄付教育に取り組みながら、新しい資金が流れるお金の仕組みを作っています」
事例として、2011年の東日本大震災での陸前高田市の図書館復興プロジェクトがあります。津波で流されてしまった図書館を本でいっぱいにするために、クラウドファンディングで1万円の寄付に対して「図書館に寄付した人の本棚をつくる」という返礼を行ったところ、目標の200万円に対してあっという間に800万円の寄付が集まりました。土地に縁ができることで陸前高田市を訪れる人が増え、つながりができ、第二の故郷ができたと語る人もいたといいます。
「経済とテクノロジーを重視していた時代から、現在では社会の仕組みもしっかりと理解してビジネスを行うことが求められます。日本の社会問題として、孤独感を抱える人の多さや未来に期待できない学生が存在するといった姿も見られますが、一方で社会問題を解決して、人を幸せにするという熱い思いを持つ『社会起業家』も増えています。彼らは皆魅力的で、人生の幸せと社会の幸せを両立しています」
鵜尾氏は「社会起業家に必要なのは『社会にインパクトを生み出す』こと。これはとても楽しく、自分の決心と行動次第で起こせます。そのためには、小さなことでも社会のためになることを選択することが必要です。私は共感性をうまく活かす力が世界を変化させると考え、組織を超えていろんな人がいろんな場所でつながる手法としてファンドレイジングにたどり着きました」と話します。
社会を変えることはドミノ倒しのような小さなところから始まる、という鵜尾氏。少しでも共感してくれる人が増えることで、ドミノがパタパタと倒れるように物事が動き出します。ドミノの間にある小さな隙間を埋めるように、連鎖を起こして社会問題を解決することが重要です。
「例えば、目の見えない人が『目が見えないので助けてください』と掲げていたボードのメッセージを、『今日はいい天気ですね、でも私は目が見えません』と書き換えることで共感してもらえた、というエピソードがあります。誰かと共感できるフィールドを見つけて、連鎖を生み出すことが大切です」
その他、慶應義塾大学で「幸福学」について教鞭をとる前野隆司教授の「幸福の4要素」という考えを紹介。「やりたいことがある」「つながりがあり、誰かのためになる(感謝される)」「ありのままでいいと思える」「なんとかなると思える」の4点は、今後の社会を生き抜く上でも意識するべきポイントだと鵜尾氏は話します。
「行動した先に人とつながり、相手を応援し、ありのままを認め合い、なんとかなると思える。誰かのためにも自分のためにも幸せであることは大切。そのうえで、人生で社会的インパクトを生み出す意味とは何か。サマーカレッジに参加しているみなさんはその一歩を踏み出しています。ぜひプログラムを通して考えてみてください」
3名の講演の後に行われたのは、「大丸有街歩きツアー」。過去・現在・未来の時間軸とともに、大丸有エリアのまちづくり・再開発についての講演で学んだ後、エリアに精通するガイドと一緒にグループに分かれてフィールドワークを行いました。
エコッツェリア協会の村上孝憲がガイドを務めるコースでは、ホトリア広場を出発し、大丸有の街路樹をめぐります。天気にも恵まれ、学生のみなさんも都会に佇む自然に触れながら、これまでとは違った視点から街を見る楽しみに気づいたようです。
3日間の皮切りとなる長岡氏の講演から始まり、講演や体験のシェアを繰り返しながら充実した1日を過ごした学生たち。2日目は、ゲストスピーカーの講演のほか、3日目の発表に向けてのワークショップが行われます。
ツアーガイドによる大丸有エリアの歴史解説にも質問が飛び交いました
「丸の内サマーカレッジ2024」2024年8月14日(水)〜16日(金)開催
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#2 日本がまだ知らないマラガ・マルベーリャの魅力的なまちづくり