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大手町・丸の内・有楽町エリアのまちづくりを推進する三菱地所が主催する「まちづくり×ロボットサロン」。国交省が推進する「スマートシティモデル事業」にも選定されているこのエリアでは、AIや自動運転技術などの有用性や実用に向けたハードルの検証など、さまざまな実証実験を行っています。
「まちづくり×ロボットサロン」はシリーズ全3回の開催を予定。第一回となる今回は、大手町パークビルで8月から実働中の自律移動警備ロボット「SQ-2」を開発したSEQSENCE株式会社CEO中村壮一郎氏、子育てや入院など距離や身体的な問題によって外出や移動が困難な人のための分身ロボット「OriHime」を開発した株式会社オリィ研究所代表取締役所長・吉藤健太朗氏、三菱地所と戦略的DXパートナーシップ協定を締結した立命館大学の久米達也氏をゲストに招聘し、ロボットをはじめとする先進技術の活用によって、将来どのような街を実現することができるのかを検討しました。
3×3Lab Futureで10月7日から22日まで展開された「分身ロボットカフェ」は、ALS(筋萎縮性側索硬化症)やSMA(脊髄性筋萎縮症)などの難病を抱える人や、何らかの理由で外出が困難な人たちが遠隔操作で操作する分身ロボット「OriHime-D」が、人間に代わって接客をするという実験的なカフェです。開催にあたっては「体験チケット」購入という形でクラウドファンディングを募り、1000万円以上の支援が集まりました。期間中は多くの参加者が足を運び、同日夜にトークイベントが開催された21日もあっという間に会場は満席に。重度の障がいや病気へのサポートや、最先端のロボット技術に対する注目度の高さが伺えました。
当日はまず、分身ロボット「OriHime-D」が開会のあいさつを担当。その後、各テーブルに設置された小型ロボット「OriHime」がお客さんのお出迎えやオーダーを受け、「OriHime-D」がドリンクの配膳を行います。キッチンからテーブルへの移動はもちろん、カップをアームで掴んでテーブルの上に置くこともできる「OriHime-D」の高い技術に、参加者からも拍手が上がっていました。 ひととおりテーブルにコーヒーが並んだあとは、各テーブルの「OriHime」と参加者とのトークタイム。パイロットを務める難病の患者さんとモニター越しに会話を楽しみ、病気に関する質問や雑談も飛び交いました。パイロットからは、「普段、人に助けてもらうことばかりなので、こうして人の役に立てることがうれしい」といった声も。各テーブルの参加者たちが、分身ロボットを介したコミュニケーションを楽しんでいました。
同日18時からは、「まちづくり×ロボットサロン」が開催。「ロボット等の活用により実現される将来のまちづくり」をテーマに、SEQSENSE株式会社CEO・中村壮一郎氏、株式会社オリィ研究所代表取締役所長・吉藤健太朗氏、学校法人立命館契約課課長・久米達也氏、三菱地所株式会社DX推進部・渋谷氏一太郎氏、三菱地所丸の内開発部・井上成氏の5名が登壇し、それぞれの視点からロボットとまちづくりの展望を紹介します。
まず初めに、三菱地所丸の内開発部・井上成氏によるイントロダクションが行われました。「ロボット」の定義とは、「人や動物を模した形状、機能を持つ機械」。しかし、明確な定義は存在していません。近年はAI(人工知能)ロボットの技術に注目が集まっていますが、今回のトークセッションではAIにとどまらず、構造や用途ごとに分類されるさまざまなロボットの動向を取り上げ、社会のなかで人間と共生していく未来を模索していきます。
「ロボットの分類は、大きく分けて自立型⇔主従型、特化型⇔汎用型の2軸です。例えばドローンは近年、主従型からAIによる自立型へと進化しています。自動運転車も本来の自動車の目的をさらに拡張し、特化型から汎用型へと発展の道をたどっています。今日ここにいるOriHimeも、単にコーヒーを運ぶという機能だけではなく、遠隔操作によるコミュニケーションなどの汎用型に向かっているようです」(井上氏)
続いて三菱地所株式会社DX推進部・渋谷一太郎氏が登壇。ビルや空港など、三菱地所が開発・運営を手がける大規模施設におけるロボット導入の現状を紹介していきます。現在はビルなどの施設管理の大部分を人手に頼っていますが、今後の再開発を推し進めていくにあたり、人員不足によって従来の管理スタイルでは立ち行かなくなっていくかもしれません。そこで三菱地所では自律移動ロボットとクラウド技術の卓越した技術を持つSEQSENSE株式会社と連携し、次世代の警備システムの構築にハイスピードで取り組んでいます。現在、三菱地所の本社が入るビルの1階では実際に警備ロボットが毎日警備を行っている他、これまでに、多くの施設に清掃ロボットや運搬ロボットなども導入していきました。
「目標としているのは、ロボットと人が共存する施設管理です。テクノロジーの変化が著しい現在、技術の進歩に合わせて従来のビジネスモデルも変えていかなくてはいけません。私たち三菱地所は、これまでもオープンイノベーションフィールドと位置付けている丸の内エリアでさまざまな実証実験を行ってきました。これからの社会の課題を解決する手段として、施設管理におけるロボットの担う役割や新しい価値観の提供は、大きく広がっていくと考えています」(渋谷氏)
次に登壇したのは、2019年3月に三菱地所DX推進部とパートナーシップ協定を締結した立命館大学の久米達也氏。立命館大学では受験生向けのオープンキャンパスで運搬ロボットを導入するなど、ロボットの導入を積極的に進めています。ビルだけでなく食堂やラウンジ、道路などの設備が揃う大学のキャンパスは、まさに社会の縮図。ここでロボットの導入実験を行うことで、社会にもその成果を反映できるはずです。
「立命館大学は総合大学なので、ロボット以外にもさまざまな分野の専門家が所属しています。そうした異分野の知見を融合させながら、ロボットを通じた総合大学ならではの課題解決ができればと考えています」(久米氏)
続いて、自律移動ロボットとクラウド技術を融合させたロボットの開発を手がけるSEQSENSE株式会社のCEO・中村壮一郎氏による講演が行われました。SEQSENSEのロボット開発の哲学は、「人型も、ネコ型も、目指さない」。日本における"ロボット"のイメージは鉄腕アトムやガンダムに引きずられがちですが、SEQSENSEが目指しているのはエンターテインメントのロボットではなく、実際の社会で役立つロボット。中村氏は、ロボットで「世界を変える」ことよりも、将来の人口減少などで立ち行かなくなる危険がある警備分野にテクノロジーのリソースを注ぎ込むことで、「世界を変えない」ためのロボット開発を理念に掲げています。 SEQSENSEが開発を手がける自律移動警備ロボット「SQ-2」の基本的な役割は、施設内の巡回と立哨。つまり、大規模なビル内では点検ポイントを何十箇所も確認するという膨大な作業が求められます。防火シャッターが閉まるかどうか、消火器があるかどうか、不審者はいないか......。「SQ-2」は、地図のデータをインプットしておけば、任意の巡回ポイントを指定するだけで、ナビゲーションシステムで最短経路を自ら計算して自動で移動することができます。
「"警備ってこういうもんでしょ"という先入観でテクノロジーを詰め込んでも、それは本当に現場で役立つ警備ロボットにはなりません。我々としては三菱地所のビルの現場に導入してもらうことで、実際にロボットを使用する立場からの意見を反映しながら開発に取り組んでいます。警備は社会インフラなので、最後は三菱地所が中心となってこのテクノロジーを日本中に広めてほしいですね。我々のようなスタートアップ企業と大企業がコラボする意味は、そこにあると思います」
最後に登壇したのは、分身ロボット「OriHime」の開発者、吉藤健太朗氏(株式会社オリィ研究所代表取締役所長)。吉藤氏がロボット開発を通じて取り組んでいる問題は「どうしたら孤独ではない未来をつくれるのか?」。分身ロボット「OriHime」は、ひとりで外出のできない高齢者や入院中の子ども、難病を抱える人々に代わって、遠隔操作で移動やコミュニケーションを行うことができます。
「ベッドから動けない人も学校へいって友達をつくったり、行きたい場所へ行ってやりたいことができる、当たり前のことが当たり前にできる世界をつくりたい」と吉藤氏は語ります。 「今の社会では、学校も職場もすべて"体が動くこと"が前提になっています。しかし、私たちもいつ体が動かなくなるかわかりません。そうなったときに、誰もが健康な生活を送ることのできる世界をデザインしたいんです」
また、吉藤氏が開発した眼球しか動かすことのできない人も遠隔操作を行えるコンピュータは、実際に病院の現場にも導入されています。目の動きだけでディスプレイ上に絵を描いたり、「OriHime」を通じて看護師や他の患者さんとコミュニケーションをとったり......。会場内のスクリーンでは「病気で身体が動かなくなっても、人生の可能性が広がった。同じ病気の人にもぜひ希望を持ってほしい」という利用者の体験談も紹介されていました。
最後に、登壇者4名によるパネルディスカッションを開催。ロボットの未来のために解決すべき課題について討論を行いました。 「警備ロボットの導入にあたっては、管理会社、現場スタッフとの意思疎通が重要」(渋谷氏)、「まずはOriHimeを知ってもらわないと、なかったことと同じになる。いかにTVを見ないお医者さんや障害を抱える人の家族に知ってもらうかが課題です」(吉藤氏)、「ロボットだけに期待するのではなく、ロボット+人間+環境のトータルで100点をとればいいんです。例えば、ロボットにドアを開ける機能を搭載するよりも、ドアの方を変える方が早い。うまく人と環境とロボットが手を組んで課題を解決するべきです」(中村氏)など、それぞれの立場から見える課題が浮き彫りになりました。
ロボットと人間が共存する社会の実現に向けて、導入側と開発側それぞれの視点から議論を展開した今回の「まちづくり×ロボットサロン」。常に変化していく都市環境のなかで、ロボットをどう実用化していくのか。今後も継続的に行われる実証実験に向けて期待が高まるイベントとなりました。